船員法適用について

 船員法は、海上における労働者(船員)の保護を目的とする法律で、船員と船舶所有者をその適用対象としています。
 船員法でいう船舶所有者とは、単に船舶の所有権者を意味するものではなく、船員の使用者を意味すると解されており、船舶共有の場合には船舶管理人に、船舶貸借の場合には船舶借入人に、これら以外の者(船員派遣業者等)が船員を使用する場合にはその者に船舶所有者の規定が適用されます。
 船員法が適用される船舶は、日本籍船の自航船または日本籍船を所有することが出来る者が借入れた船舶で以下の船舶を含みません。

  1. 総トン数5トン未満の船舶
  2. 湖、川又は港のみを航行する船舶
  3. 船員法第1条第2項第3号の漁船の範囲を定める政令に定めのある総トン数30トン未満の漁船
  4. 船舶職員及び小型船舶操縦者法第2条第4項に規定する小型船舶であって、スポーツ又はレクリエーションの用に供するヨット、モーターボートその他のその航海の目的、期間及び態様、運航体制等からみて船員労働の特殊性が認められない船舶として国土交通省令の定めるもの

 船員が船舶に乗り組むためには、船員手帳を受有しなければなりません。船員手帳は船員の身分証明書としての性格を有するものであり、氏名、本籍、生年月日の他、雇入契約事項、休日、船員の乗船履歴、保険、健康証明等が記載されています。船長は、雇入契約の成立後、遅滞なく船内における職務、雇入期間その他船員の勤務に関する事項を船員手帳に記載しなければならず、それを運輸局または指定市町村へ届出なければなりません。また、日本人の船員手帳は旅券(パスポート)としての性格も有しており、有効期間は10年間です。なお、船員手帳は外国人にも交付されますが、身分不証明のため旅券としての効力はなく、有効期間は5年間です。また、海技資格取得や更新のための乗船履歴の証明にも用いられます。なお、日本人が受有する船員手帳の交付等申請は本人が出頭して行わなければなりません。必要書類、出頭機関等に関する質問は、お近くの海事代理士にお問い合わせください。

 船舶に船員として乗り組むためには、雇入契約を締結し、それを届出なければなりません。また、船舶から下船したときや、その契約内容を変更したときも、同様に届出なければなりません。届出があったときは、法律により、雇入契約が航海の安全、労働関係に関する法令の規定に違反していないか、及び当事者間の合意が充分であったかどうかを国土交通大臣が確認することとなっており、必要に応じて、是正命令その他の措置が講じられることになります。このため、雇入契約の成立等の届出の際には、形式的審査にとどまらず、船員法に基づいた内容について基準を満たしているかの確認が行われます。
 「雇入契約」とは、海上における具体的な労働条件について、船員と使用者の当事者間で結ぶ労働契約のことで、乗船する船舶、乗船期間、航行中の職務、給料、休暇など船員法に沿った内容となっており、一般の「雇用契約」とは異なります。
 雇入契約書、届出に関する質問、届出の代行依頼等、お近くの海事代理士にお問い合わせください。
届出に関する質問、届出の代行依頼等、お近くの海事代理士にお問い合わせください。

 船員法に基づき、船員が労働する上で遵守しなければならない事項を規律し、保護されるべき労働条件を具体的に明示すべく、労使間の合意の下で作成された規則であり、船員の給料や労働時間その他労働条件に関すること、船内の規律などについて定められています。
 労働に関する基準は労働基準法により規定されていますが、船員の労働に関しては、労働基準法のごく一部を除き適用除外となっており、船員法の規定が適用されます。船員法によると、常時10人以上の船員を使用する船舶所有者は、就業規則を作成し、国土交通大臣に届出なければなりません。(常時とは、常態として10人以上の船員を使用しているとの意味であって、臨時雇いか否かは問わない。   また、季節営業であってもその営業期間中常に10人以上の船員を使用していれば該当する。) また、船舶所有者は、届出をした就業規則を船内及びその他の事業場内に掲示又は備え置かなければなりません。

  1. 絶対的必要記載事項
    1. 給料その他の報酬
    2. 労働時間
    3. 休日及び休暇
    4. 定員
  2. 船舶所有者が定めた場合に届出なければならない事項
    1. 食料並びに安全及び衛生
    2. 被服及び日用品
    3. 陸上における宿泊、休養、医療及び慰安の施設
    4. 災害補償
    5. 失業手当、雇止手当及び退職手当
    6. 送還
    7. 教育
    8. 賞罰
    9. その他の労働条件

ご相談、規則の作成及び届出等はお近くの海事代理士にお問い合わせください。

 船長は、次の事項に該当する事象が生じた場合には、国土交通大臣にその旨を報告しなければなりません。

  1. 船舶の衝突、乗揚、沈没、滅失、火災、機関の損傷その他の海難が発生したとき。
  2. 人命又は船舶の救助に従事したとき。
  3. 無線電信によって知ったときを除いて、航行中他の船舶の遭難を知ったとき。
  4. 船内にある者が死亡し、又は行方不明となったとき。
  5. 予定の航路を変更したとき。
  6. 船舶が抑留され、又は捕獲されたときその他船舶に関し著しい事故があったとき。

また、上記以外の事項であっても任意で報告することは指し支えありません。
*任意による報告事例 浮遊物接触、損傷発見、荒天遭遇等
なお、「海難報告」とは、この規定に基づいた報告の俗称です。
ご相談、報告書の作成及び届出等はお近くの海事代理士にお問い合わせください。

 海上労働証書は、船員の労働条件等に関する検査を受検し、検査の結果、海上労働条約(2006年の海上の労働に関する条約)の要件に適合すると認められたものに交付されます。国際総トン数500トン以上の外航日本船舶は、海上労働証書を受有しなければ国際航海に従事することができません。国際総トン数500トン未満の外航日本籍船舶でも、任意で受有することができます。この規定は漁船及び国、地方公共団体、独立行政法人、特殊法人等が所有又は運航する非商業船には適用されません。
 海上労働証書の有効期間は5年で、5年毎に定期検査、交付後2年目と3年目の間に中間検査を受検しなければなりません。
 受検申請は、船舶所有者、船舶共有の場合には船舶管理人、船舶貸借の場合には船舶借入人(マルシップの場合は海外法人)が行います。
 検査は、国土交通省又は登録検査機関(日本海事協会(NK)等)のいずれの機関においても受検することができます。検査に合格すると、海上労働証書が国土交通省より交付されます。
詳細、手続きに関するご相談は、お近くの海事代理士にお問い合わせください。

  1. 次の船舶をのぞいて、船長は、航海当直部員を乗り組ませなければなりません。
    1. 平水区域を航行区域とする700トン未満の船舶
    2. 専ら平水区域において操業する漁船
    3. 船員法第1条第2項第3号の漁船の範囲を定める政令別表の海面において操業する漁船
  2. 船舶所有者は、部員に甲板部又は機関部の航海当直部員としての業務を行わせる場合には、甲板部(又は機関部)航海当直部員の資格認定を受けた者でなければなりません。
    認定基準は以下のいずれかになります。

    1. 航海当直又はこれに準ずる業務に6月以上従事した履歴
    2. 登録船舶職員養成施設の課程を修了したことを証する書類
    3. 海技免状受有者

手続きに関するご相談は、お近くの海事代理士にお問い合わせください。

 沿海区域以遠を航行する「石油タンカー」、「液体化学薬品タンカー」、「液化ガスタンカー」には危険物等取扱責任者として証印を受けている者を乗り組ませなければなりません。船舶所有者は、省令の定めるタンカーに、船長・一等航海士・機関長・一等機関士を乗り組ませようとするときは、タンカーの種類に応じて甲種を、それ以外の海員を危険物又は有害物の取扱いに関し責任を有するものとして乗り組ませるときは、タンカーの種類に応じて甲種又は乙種の危険物等取扱責任者資格認定を受けている者を乗り組ませなければなりません。
 危険物等取扱責任者の資格認定を受けるためには、乗船履歴及び所定の講習の受講が必要で、申請により船員手帳に証印を受けます。また、この資格認定は有効期間が5年間と定められていて、更新するためには一定の乗船履歴を有するか、所定の講習の受講が必要です。
手続きに関するご相談は、お近くの海事代理士にお問い合わせください。

 旅客船又は旅客船以外の最大とう載人員100人以上の船舶の船舶所有者は、乗組員の中から次表の員数の救命艇手を選任する必要があります。また、救命艇手は、救命艇手適任証書を受有する者でなければなりません。
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 船舶所有者は、旅客船には、旅客の避難に関する教育訓練その他の航海の安全に関する教育訓練を修了した者を乗り組ませなければなりません。
 船舶所有者は、当該旅客船の乗組員に対し、5年以内毎に教育訓練を実施しなければなりません。

 船舶所有者は、特定高速船又は水中翼船及びエアクッション艇には、船舶の特性に応じた操船に関する教育訓練その他の航海の安全に関する教育訓練を修了した者を乗り組ませなければなりません。
 船舶所有者は、特定高速船又は水中翼船及びエアクッション艇の乗組員に対し、2年以内毎に教育訓練を実施しなければなりません。
手続きに関するご相談は、お近くの海事代理士にお問い合わせください。

 船舶所有者は、船長の意見を聞いて、甲板部、機関部、無線部、事務部その他の各部について、海員の中からそれぞれ安全担当者を選任しなければなりません。
 安全担当者を選任するためには、当該部の業務に2年以上従事した経験を有する者であって、当該部の業務に精通するものでなければなりません。
手続きに関するご相談は、お近くの海事代理士にお問い合わせください。

 船舶所有者は、船長の意見を聞いて、次のいずれかに適合する安全担当者の中から、選任しなければなりません。

  1. 海技免状受有者
  2. STCW条約締約国が発給した条約に適合する船舶の運航又は機関の運転に関する資格証明書を受有する者であって、国土交通大臣の承認をうけたもの
  3. 海技免許講習のうち「消火講習」を修了している者
  4. 消火作業指揮者適任証書を受有している者

 2010年STCW条約改正に伴い、船舶所有者は、消火作業指揮者適任証書受有者が業務の実施に必要とされる能力基準を維持していることを、5年ごとに証明することを義務づけられました。
手続きに関するご相談は、お近くの海事代理士にお問い合わせください。

  1. 航海中に船員に支給される食料の調理が船内において行われる船舶で、次に該当するものは、船舶料理士資格証明書を受有しているものを乗り組ませなければなりません。
    1. 近海区域以遠を航行区域とする船舶又は従業制限が第3種の漁船
    2. 総トン数が1000トン以上の船舶
  2. 国土交通大臣は、次に規定する船舶料理士の要件を全て備える者に対し、その者の申請により船舶料理士資格証明書を交付する。
    1. 20才以上であること。
    2. 船舶に乗り組んで1年以上専ら調理に関する業務(司厨員、調理担当など)に従事した経験を有すること。*調理師、栄養士、独立行政法人海員学校の司厨・事務科を卒業した者又はそれと同等以上の能力を有すると認められる者にあっては3月以上
    3. 次のいずれかに該当する者であること。
      1. 船舶料理士試験に合格した者
      2. 独立行政法人海員学校の司厨・事務科を卒業した者
      3. 調理師、栄養士、その他イ)またはロ)に掲げる者と同等以上の能力を有すると認められる者

手続きに関するご相談は、お近くの海事代理士にお問い合わせください。

 次に掲げる船舶に乗り組み、航海中、船員に支給する食料の調理を船内で行う者は、船内における調理に関する業務についての基本的な知識を有していなければならず、調理教育修了等証明書を受有しなければなりません。

  1. 沿海区域以遠を航行区域とする船舶
  2. 漁船(専ら平水区域又は法第1条2項3号の漁船の範囲を定める政令別表の海面において操業する漁船を除く。)

対象年齢 18歳以上(漁船の場合は15歳に達した日以降の最初の3月31日が終了した者)
手続きに関するご相談は、お近くの海事代理士にお問い合わせください。

 船舶所有者は、以下の船舶には、医師を乗り組ませなければなりません。

  1. 遠洋区域又は近海区域を航行区域とする総トン数3000トン以上の船舶で最大とう載人員100人以上のもの。
  2. 前号に掲げる船舶以外の遠洋区域を航行区域とする、海上運送法に規定する定期航路事業に従事する船舶で、国土交通大臣の指定する航路に就航するもの。
  3. 前号に掲げる船舶以外の遠洋区域を航行区域とする、その他一定の航路に常時就航する船舶で、国土交通大臣の指定する航路に就航するもの。
  4. 母船式漁業に従事する漁船で、最大とう載人員100人以上又は総トン数3000トン以上の母船。

手続きに関するご相談は、お近くの海事代理士にお問い合わせください。

 船舶所有者は、以下の船舶については、衛生管理者を選任しなければなりません。

  1. 遠洋区域又は近海区域を航行する総トン数3000トン以上の船舶
  2. 母船式漁業に従事する母船
  3. 総トン数3000トン以上の漁船
  4. 総トン数150トン以上の遠洋かつお・まぐろ漁業に従事する漁船
  5. 遠洋底びき網漁業であって、オッタートロール又はビームトロールを使用して営むもの

 ただし、内航船又は東経150度、北緯21度、北緯46度の線及びアジア大陸の沿岸により囲まれた海域のみを航海する船舶に対しては選任義務はありません。
 衛生管理者になるためには衛生管理者適任証書の交付を受けていなければなりません。

衛生管理者資格の認定
 国土交通大臣は、以下の要件に適合する者であって、衛生管理者としての業務を遂行する能力を有すると認められる者について、衛生管理者適任証書を交付する。

  1. 医師
  2. 歯科医師、薬剤師又は獣医師
  3. 保健師、助産師、看護師又は准看護師
  4. 医学士、菌学士、薬学士又は衛生看護学士
  5. 旧専門学校卒業者(医学、歯学その他の保健衛生に関する旧専門学校令に基づくもの)
  6. 外国で医師免許を得たもの
  7. 労働安全衛生法の規定による衛生管理者の資格を有する者で、船舶に乗り組んで2年以上船内の衛生管理に関する業務に従事した経験を有する者
  8. 国土交通大臣の登録を受けた講習機関が実施する「登録講習」を修了した者
  9. その他、上記(1)〜(8)に掲げる者と同等以上の能力を有すると認められる者

手続きに関するご相談は、お近くの海事代理士にお問い合わせください。

  1. 船舶所有者は、船長の意見を聞いて、次のいずれかに適合する海員の中から、衛生担当者を選任しなければなりません。
    1. 海技免許を受けていること。
    2. STCW条約締約国が発給した条約に適合する船舶の運航又は機関の運転に関する資格証明書を受有する者であって、国土交通大臣の承認をうけていること。
  2. 衛生担当者の業務は以下のとおりです。
    1. 居住環境衛生の保持に関すること。
    2. 食料及び用水の衛生の保持に関すること。
    3. 医薬品その他の衛生用品、医療書、衛生保護具等の点検及び整備に関すること。
    4. 負傷又は疾病が発生した場合における適当な救急措置に関すること。
    5. 発生した負傷又は疾病の原因の調査に関すること。
    6. 衛生管理に関する記録の作成及び管理に関すること。

手続きに関するご相談は、お近くの海事代理士にお問い合わせください。

 船員の派遣(船員派遣事業)を行う場合、船員職業安定法による国土交通大臣の許可が必要です。船員派遣事業とは、“自己の常時雇用する船員を他人の指揮命令を受けて、この他人のために船員として労務に従事させることを業として行う事業”とされており、運用においては派遣する船員は船舶所有者が常時雇用する船員であることなど、多くの守るべきルールがあります。
 また許可申請には様々な申請書や添付書類に加えて、適正な雇用管理の態勢、個人情報保護の態勢、事業遂行能力(財産の要件、組織の要件、事務所の要件 他)などを整備する必要があり、許可は国土交通省における審査、実地調査等、交通政策審議会の意見聴取等の手続を経て行われます。
 その為、準備や許可申請は十分な時間的余裕を持って行う必要があります。
詳しくはお近くの海事代理士にご相談下さい。